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トム・スウィフトとモーターサイクル 第一章 危機一髪①

  • 執筆者の写真: 上地王植琉
    上地王植琉
  • 2022年8月29日
  • 読了時間: 4分

「そうそう、その調子だ! いいぞ、アンディ! スパーク・レバーを押して、ガソリンをもっと注入するんだ! この遠征で記録を作るぞ!」

 田舎道を疾走するツーリング・カーの後部座席部に座っていた二人の若者が、ハンドルを握る一人に話しかけようと身を乗り出した。

 赤毛の青年で目が少し細くて、あまり感じのいい顔ではなかったが、仲間たちは彼を好意的に見ているようだ。彼の自動車に乗っているからだろうか。

「アンディ、もっと飛ばしてくれよ!」と助手席に座っていた青年が言った。「これはすごいぞ!」

「君なら気に入ってくれると思ったよ!」

アンディ・フォガーは路上の石を避けるためにハンドルを切りながら言った。

「ショプトンの街を活気づけてやるぞ!」

「耳が痛いや……。うわっ! 帽子が!」

その時、車のスピードに乗った風がアンディの帽子を舞い上げ、後方へ飛ばした。

アンディ・フォガーは一瞬後ろを振り返った。そして、スロットルをさらに大きく開けて、こう叫んだ。

「放っておけよ、サム。そんなものは。マンスバーグまで何分で行けるか試したい! できれば記録を更新したいんだ」

「気をつけないと、またなにか壊しちまうぞ!」

後部座席の若者が叫んだ。

「この先に自転車に乗った奴がいるぞ。気をつけろよ、アンディ!」

「自分で気をつけやがれ!」とフォガーは言いながら、ハンドルに身をかがめ、車は猛スピードで走り出した。

自転車に乗っていた青年はゆっくり走っていたので、自動車が近づいてくるのに気づかなかった。アンディ・フォガーは意地悪な笑みを浮かべながら、ホーンのゴム球を勢いよく押して、警笛の音を何度も鳴り響かせた。

「トム・スウィフトだ!」とサム・スネデッカーが叫んだ。「気をつけないと轢き殺しちまうぞ!」

「邪魔をするな!」

アンディは猛烈に言い返した。

ハンドルを握った青年は、急にスピードを上げ、ハイウェイを横断しようとした。

そして、なんとか渡りきったものの、アンディ・フォガーは恐怖のあまりエンジンを切り、ブレーキをかけて片側に寄せた。そのため急にハンドルを切らなければならなくなり、重たい機械は横滑りして道路脇の溝に入ってしまった。

トム・スウィフトは、危機一髪のところで顔が青ざめ、自転車から飛び降りて、自動車のほうに立った。その車に乗っていたのは、持ち主のアンディ・フォガーから一緒に乗っていた三人の取り巻きまで、みんなとても驚いた顔をしていた。

「アンディ、何か被害はないのか?」とサム・スネデッカーは尋ねた。

「そうでないことを祈るね!」とアンディは唸った。「ボクの車が傷ついたとしたら、それはトム・スウィフトのせいだ!」

アンディは席を立ち、急いで自動車を点検したが、とくに何も問題はなかった。

アンディは振り返って、トム・スウィフトを激しく見据えた。後者はフェンスに車輪を立て、前方に歩いていった。

「なんであんな邪魔をするんだ?」と、アンディは顔をしかめた。「もう少しで轢き殺すところだったじゃないか!」

「アンディ・フォガー、いい度胸だ!」トムは叫んだ。「轢き殺すところだったとはどういうことだ? なぜクラクションを鳴らさなかったんだ? お前たち自動車の運転手は、あまりに当たり前過ぎることすらやっていないじゃないか。法定速度より速かったんだろう?」

「へぇ、そう?」と、アンディは嘲笑した。

「そうだ、そうだ。責めるのは俺だ、お前じゃない。おまえはもう少しで俺を轢くところだったんだぞ! なにが邪魔をするなだ! 俺には道路を走る権利があるんだ!」

「……ああ、もう行こうぜ!」

アンディは唸った。他に言うべきことを思いつかなかったのだ。

「とにかく、自転車なんて時代遅れってことさ!」

「そう昔からあるものでもないけどな!」とトムは言い返した。「お前ら、その内にスピード違反で捕まるぞ!」

「アンディ、もっとゆっくり走った方がいいよ」とサムは低い声で忠告した。「逮捕されたくないんだ」

「まあ、任せろ。この遠征は僕が仕切ってるんだ。今度邪魔をしたら、ぶっ飛ばしてやるからな!」とアンディはトムを脅した。「さあ、みんな、もう遅い。今日はもう記録は作れない、全部あいつのせいだ」

アンディは車に戻り、スリリングな停車を終えて、急いで降りてきた取り巻きたちもそれに続いた。

「今度こんなことをしたら、必ず後悔することになるぞ!」とトムは宣言し、去っていく自動車を見送った。

「ああ、忘れてくれ!」とアンディが言い返して笑い、仲間も一緒になって笑った。

トム・スウィフトは何も答えない。しかし、アンディ・フォガーに対する彼の思いは、あまり楽しいものではなかった。

アンディは町の大富豪の息子で、その金銭的な幸運が仇となり、いじめっ子で臆病者になってしまったようであった。アンディは威張りくさっていて、トム・スウィフトとは何度か衝突したことがある。しかし、アンディがこれほどまでに執念深い性格になったのは今回が初めてだった。



――つづく。


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